速不台《スブタイ》、貴公行け。
速不台《スブタイ》 獅子の檻へならはいって行くが、殿の御不興《ごふきょう》だけは――それに、おれは、先刻から、急に腹が痛み出して、ううむ、これはやりきれん。あ痛たたた、忽必来《クビライ》君、頼む。君行って、お起し申してくれ。
忽必来《クビライ》 冗談でしょう。吾輩はにわかに頭痛がして――。
合撒児《カッサル》 頭痛がしたって歩けるだろう。
忽必来《クビライ》 いや、その、実は足が痛いので――おお痛い。こいつはたまらん。哲別《ジェベ》どの、これはどう考えても年寄り役だ。長老、一つ――。
哲別《ジェベ》 それが、その、なんだ、私の行きたいのは山々だが、年齢《とし》のせいか鳥眼《とりめ》の気味でな、夜になると何も見えん――。
合撒児《カッサル》 はっはっは、大切な乃蛮《ナイマン》征伐を前にして、軍の大幹部がみんな急病とは大変だな。よし、じゃ、みんなではいって行こう。
汪克児《オングル》 (しゃしゃり出て)お待ちを。しばらくお待ちを。その役目は、どうぞ拙者めにお任せ下さい。たとえ成吉思汗《ジンギスカン》様が辛子《からし》をお舐めになった時でも、かく言うそれがしさ
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