えお傍にいれば、ああ辛いとおっしゃるかわりに、わっはっはと笑わせてお眼にかける。えへん、大王さま第一のお気に入りの汪克児《オングル》様々じゃ。万事、な、万事この胸に――者ども騒ぐな。おほん! (そっくり返って天幕へはいってく)
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一同は天幕の入口に集まり、心配そうに聞き耳を立てる。
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成吉思汗《ジンギスカン》の声 (天幕の中から、睡そうに)ううう、うるさい芋虫だな。なに、木華里《ムカリ》がまだ帰らないから、もう総攻撃開始だと? (叱咤する)ええい、やかましい! 勝手にしろ!
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とたんに、天幕のなかで、主人の怒りに刺激された物凄い虎の咆哮が、一声大きく聞える。同時に、天幕の入口から汪克児《オングル》が、俵を投げ出すように、ごろごろと勢いよく転げ出して来る。それを追っかけて、巨大な猛虎が一頭、唸りながら躍り出る。続いて成吉思汗《ジンギスカン》が、少年のような快活さで、出入口の垂れをはぐって現れる。何の屈託もなさそう、にこにこして大股に駈け出て来る。小姓|巴剌帖木《パラテム》、朱
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