。点呼はまだか。
忽必来《クビライ》 は。もうすむころです。今にも報告がまいりましょう。
哲別《ジェベ》 もうとうに月が上ったに、まだ木華里《ムカリ》が帰らんところを見ると、降伏を拒絶したにきまっておる。合撒児《カッサル》様、殿に、進発の御催促を申し上げては。
汪克児《オングル》 (跳び撥ねながら)月夜に釜を抜くというが、こちとら、月夜に城を抜く。
速不台《スブタイ》 そうだろうと思った。無駄だろうと思った。あの札木合《ジャムカ》の奴が、女房を一晩こっちの陣営へよこすなどと、そんな条件を承知するはずはないのだ。
哲別《ジェベ》 じゃが、殿の御心中をお察しすると、木華里《ムカリ》のやつめ、うまく合爾合《カルカ》姫を引っ張ってくるとよいのじゃがなあ。
合撒児《カッサル》 そうだとも。兄貴ともあろうものが、この小っぽけな城一つを長々と囲んで、今まで思いきって揉み潰してしまわなかったのは、ただ、合爾合《カルカ》姫の身を案じたればこそだ。
汪克児《オングル》 (したり顔に腕組みして、合撒児《カッサル》の仮声《こわいろ》で)するてえと、兄貴の野郎、まだ、合爾合《カルカ》姫のことを想っているのだなあ
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