。
速不台《スブタイ》 馬鹿っ! 殿に聞えたらどうする。
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下手の立樹の間から、侍衛長馳せ来る。
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侍衛長 報告! 点呼を終りました。一同、弓に新しき矢を番《つが》え、馬背に鞍を締め直して、一時も早く総攻撃の命を待っています。
忽必来《クビライ》 よし。箭筒兵《せんとうへい》一千のうち――?
侍衛長 はっ。今日までの攻城戦に、ただ八十人の戦死者あるのみでございます。
忽必来《クビライ》 うむ、宿衛兵一千。
侍衛長 はっ、今日の死者は、わずかに六人。傷つくもの十七名。
忽必来《クビライ》 侍衛兵、一千――。
侍衛長 はっ、死者はございません。
忽必来《クビライ》 よろしい。命令を待て。
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侍衛長走り去る。この間も汪克児《オングル》は、ところ狭しと独りでふざけ廻って、馬の尻っ尾を引っ張ったり、駱駝と白眼《にら》めくらをしたり、自分の鼻の孔へ指を入れて嚏《くさめ》をするやら、もんどりを打つやら、しばらくもじっとしていない。一同は慣れているので誰も注意を払わない。
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