に、止め度もなく戯けおって。控えろ、汪克児《オングル》!
汪克児《オングル》 と、叱りつければ、汪克児《オングル》は――。(と辷るように下手へ走って、坐っている駱駝の背へちょこんと股がり、走らせる真似)はいはい、どうどう! 進めや進め、成吉思汗《ジンギスカン》! やあやあ、遠からん者は音にも聞け。近くは寄って眼にも見よ。われこそは、大王|成吉思汗《ジンギスカン》の陣中にその人ありと知られたる、滑稽ちゃらっぽこの一手販売、山椒は粒でもぴりりと辛い、汪克児《オングル》大公爵さまだ。成吉思汗《ジンギスカン》様第一のお気に入り――ねえ、君、駱駝《らくだ》君。
合撒児《カッサル》 (成吉思汗《ジンギスカン》の弟、下手よりつかつかと現る。通りすがりに、駱駝の背から汪克児《オングル》を突き落して)お! これは大公爵閣下、とんだ失礼を。(天幕の垂れをはぐり、はいろうとする)
忽必来《クビライ》 合撒児《カッサル》さま、殿はまだお昼寝のつづきです。
合撒児《カッサル》 うう、(振り返る)まだ寝てる? 相変らず呑気な兄貴だなあ。(ふと下手を見やり)おお、月が出た、月が出た! あれ見ろ、砂漠の上に、大きな月
前へ 次へ
全94ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング