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合爾合《カルカ》姫 この石段をまっすぐ下りて、突き当りの廊下を左へ出れば、城の横手の草原へ抜けられます。そこらは城兵も尠いはず、さ、一刻も早く――。
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木華里《ムカリ》は一礼して走り下りる。合爾合《カルカ》姫は独り頷首いて、おのが居間に通ずる上手の扉へ駈け入る。しばらく舞台空く。油の煮える煙り一度に上がる。群集の悲鳴凄まじく響く。すぐにその同じ上手の戸口から、妃の盛装の上に大きな鹿の皮を被った合爾合《カルカ》姫が、そっと一人忍び出て来る。舞台中央に立ち停まり、ひそかにふところから懐剣を取り出して引き抜き、じっと見入る。
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合爾合《カルカ》姫 (独語)この札荅蘭《ジャダラン》族へ輿入れする時、父の瑣児肝失喇《ソルカンシラ》から渡されたこの守り刀が、こんな役に立とうとは思わなかった。もし成吉思汗《ジンギスカン》が無礼を働いたら、いっそ一思いにこの胸を――。(と自分の胸へ突き刺す仕草《しぐさ》)
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うなずきながら、鹿の皮を頭からかぶり、木華里《ムカリ》の去った下手の
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