石段を駈け下りる。とたんに、露台上手より侍女二人、あわただしく走り出て、
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侍女一 おや! 奥方様はどこに? あら、あの軍使もいない――奥方さま、奥方様!
侍女二 ああ、奥方様のお身に、変り事がなければよいが――。
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二人そそくさと室内を捜し廻る。舞台刻々暗くなり、露台の外、月の出はいよいよ迫る。
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札木合《ジャムカ》の声 (近づいて来る)合爾合《カルカ》、合爾合《カルカ》! 合爾合《カルカ》はおらぬか。(幕)
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   第二幕 第一場

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城外。塔米児《タミイル》、斡児桓《オルコン》の両河の合する三角洲に設けられた、成吉思汗《ジンギスカン》の大|天幕《テント》の前。砂漠の広場。前の場と同じ時刻。
正面すこしく上手寄りに、成吉思汗《ジンギスカン》の天幕《ユルタ》、垂れを掛けたる出入口あり。哨兵二名、その左右に立ち、一人はたえずその前を往復して警護す。下手奥は、夜眼にも白き大河、彼岸
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