を逃がして下さるのですか。
合爾合《カルカ》姫 わたしは決心いたしました。いかに殿様がああおっしゃって下さればとて、あの泣き叫ぶ城下の人々、先の短い老人や愛《あどけな》い女子供を、どうして、城とともに見殺しにすることができましょうか。憎んでもあまりある成吉思汗《ジンギスカン》ですけれど、女の身で役に立つのは、せめてそれくらいのこと――言うなりに後からすぐ城を脱け出て、はい、まいります。あの人の陣屋へ、まいります! あなたは一足先に駈け帰って、どうぞ、そう復命して下さい。そして、総攻撃をお止め下さい。(身も世もなく泣きつつ急き立てる)
木華里《ムカリ》 それでは、合爾合《カルカ》姫、たしかにわが大将の陣営へ、一人でおいでになるのですな。うむ、お待ち申しておりますぞ。
合爾合《カルカ》姫 念には及びませぬ。わたしはもう覚悟を――そう言う間も気が急きます。あの台察児《タイチャル》さまが上って来ないうちに、早く! 早くお逃げ下さい。
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と薄暗い中に木華里《ムカリ》をさし招き、下手の小さな戸口《ドア》から出しやる。
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