、おう。ここは大丈夫らしいぞ。ここまではどうやら矢も飛んで来まい。いやどうも、こんな目に遭うくらいなら、死んだほうがましだ。
従者 まったくでございます。あの時、和林《カラコルム》から別の道をとって、まっすぐお故郷《くに》へお帰りになればよかったものを。
商人 いや、お前にそれを言われると、面目次第もない。はるばるわが金の国から、織物、陶器などを持って来て、この蒙古の黒貂《くろてん》、羊皮、砂金などと交易するのは、まるで赤子の手を捻るような掴み取りだ。馬鹿儲けに調子づいて、ついこの奥地まで踏み込んだところが――。
従者 (主人を助け歩かせて、こわごわ下手の堡塁のほうへ近づき)思いがけなく和林《カラコルム》の成吉思汗《ジンギスカン》様が、あの、(と、はるかなる抗愛山脈を指さし)山の向うの乃蛮《ナイマン》国をお攻めになることになって、その進路に当るこの札荅蘭《ジャダラン》域を併せ従えようと、いや、えらい戦争になりましたもので。
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下の砂漠からこの望楼へも、一二本矢が飛んで来る。二人はあわてふためいて、石畳に身を伏せる。同じく上手の扉から、花剌子模《ホラズム》国より蒙古
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