教化に派遣されている回々《ふいふい》教僧侶、よろぼいいず。
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僧侶 おお、ここも矢が来るのか。こうなってはいよいよこの城も、今日が落城に相違ない。おう、金の商人殿、お互いとんだ災難に捲き込まれたものですなあ。
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雄叫びの音、弓矢の唸りいっそう迫る。
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商人 (生きた心もなく)今もそれを話し合っていたところです。成吉思汗《ジンギスカン》さまが、乃蛮《ナイマン》征伐の途中、この札荅蘭《ジャダラン》城を攻めて、札荅蘭《ジャダラン》の札木合《ジャムカ》様が此城《ここ》へ籠城してから、もうこれで、一と月あまりだ。私どもも、ここへ逃げ込んだばかりに、この傍杖を食ったのだ。よほど前から、城内には食い物ひとつありません。鹿の肉一きれ口にしなくなってから、はや何日かわからない。
従者 御主人様、食いものの話は止して下さい。私はこのごろ、夜も昼もうつらうつらとして、炒米《チャウミイ》の夢を見るありさまです。
僧侶 城中の生き物は、すべて食ってしま
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