のためには、市井《しせい》の匹夫のごとき手段をも辞せぬものか。憐れな迷執の虜だ。この合戦は、数年前の恋のたたかいの続きであったのだ。恋に勝って合爾合《カルカ》を得たわしは、この戦いにも勝ち抜くのだ。なんの! 合爾合《カルカ》を成吉思汗《ジンギスカン》の自由にさせてたまるものか。(木華里《ムカリ》へ)飛んで火に入る夏の虫とは、貴様のことだ。地獄の迎えを待て!
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言い捨てて、露台へ出ようとすると、合爾合《カルカ》姫が侍女二三を従えて円柱の陰から現れる。
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合爾合《カルカ》姫 殿――! (泣き崩れる)
札木合《ジャムカ》 (支えて)おお、お前はそこにいたのか。して、今の話を聞いたのか。
合爾合《カルカ》姫 はい。残らず聞きましてございます。憎いのは、あの成吉思汗《ジンギスカン》です。大方あの時、あなた様と、妾を争いましてから、ずっとこの機会を狙っていたのでございましょう。偉い大将に出世したと聞きましたが、やっぱり、昔のがむしゃらな成吉思汗《ジンギスカン》! ああ、妾はいったいどうしたら――。(泣き入る
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