、唐獅子の香盒を引っ掴み、王座の下の床に叩きつけて微塵に砕く)
台察児《タイチャル》 畜生! こ、この軍使の奴、どうしてくれよう! そうだ。この牛のような首を撥ねて、砦から投げ下ろしてやれ。身体《からだ》は油炒《あぶらい》りにしてやるのだ。おい! 皆来い。中庭へ釜を持ち出して、油を煮る支度をするのだ。
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と軍卒らを促し、露台から上手へ駈け入る。札木合《ジャムカ》付きの参謀四五人と木華里《ムカリ》の看視兵二三を残して兵士一同、および官人ら続いて走り去る。避難民も驚いて、皆あとを追って露台から上手へはいる。
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木華里《ムカリ》 (泰然と)それならば、悪いことは言わぬ。早く油を沸かさぬと、今にも我軍この城中へ押し入って来るぞ、ははははは。あの砂漠の地平に、東の海の真珠のような月が昇るまでに、合爾合《カルカ》姫が城を抜け出ぬ場合には、条件を受け入れぬものと見て、一刻の猶予もなく攻め込む手筈になっているのだ。
札木合《ジャムカ》 (静かに)わしは成吉思汗《ジンギスカン》のために惜しむ。あれほどの豪傑も、恋
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