収めて、和林《カラコルム》へ凱旋するだけだ。今日はその覇業の第一日だぞ。おい! 乃蛮《ナイマン》の太陽汗《タヤンカン》先生! 出て来い! (虎を呼ぶ)
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舞台一ぱいに、眼の眩むような金色の朝日。美しい朝だ。声に応じて猛虎が走り込んでくる。成吉思汗《ジンギスカン》は嬉しくてたまらなさそうに、その虎の耳を掴んで、頬を平手打ちにする。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (虎へ)どうだ、えらいだろう、おれは! はははははは、いい気持ちだなあ。さっぱりしたなあ。どうでえ、恐れ入ったろう、はっはっは。
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と虎の口へ拳固を押し込んだりなどする。巨大な虎が猫のごとく成吉思汗《ジンギスカン》に跳びつく。成吉思汗《ジンギスカン》は絶えず呵々大笑しながら、上になり下になり、虎と一しょに天幕狭しと転げ廻る。幼児のように猛虎とじゃれる。長老|哲別《ジェベ》が駈けこんで来る。
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哲別《ジェベ》 おお、太陽汗《タヤンカン》はここに――。
成吉思汗《ジンギスカン》 (虎の下になって戯れつつ、仰向けに寝たまま)おい、親《おやじ》! いい天気だなあ。でかけようじゃねえか。すこしは気持ちのいい戦争もさせてくれよ。
哲別《ジェベ》 合爾合《カルカ》姫は?
成吉思汗《ジンギスカン》 もう帰ったよ。
哲別《ジェベ》 それでは、いよいよ乃蛮《ナイマン》国へ――。
成吉思汗《ジンギスカン》 (がばと撥ね起る)うむ、進発だ!
哲別《ジェベ》 はっ。
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と一隅から銅鑼を持ち出し、天幕の入口に立ってとうとう[#「とうとう」に傍点]と打ち鳴らす。天幕の外、にわかに騒然とし、武器の音、軍馬のいななき、蹄の響き、蒙古犬の吠え声。弟|合撒児《カッサル》を先頭に、忽必来《クビライ》、速不台《スブタイ》、小姓|巴剌帖木《パラテム》、その他参謀等多勢、厳《いかめ》しき武装にて馳せ入り、成吉思汗《ジンギスカン》の前に整列する。同時に、兵卒ら多勢走り廻って、ばたばたと天幕を畳めば、斡児桓《オルコン》河の向うに、抗愛山脈が旭に光り、舞台一面の広場となる。
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成吉思汗《ジンギ
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