る)
成吉思汗《ジンギスカン》 駄目だ、駄目だ! 姫はまだ笑わないぞ。こんなことでは、まだ饗応がたらぬ。誰か合爾合《カルカ》姫を笑わせるものはないか。笑わせた者は、大名に取りたててやる。(だんだん興奮して)ほら、この剣をやる! いや、この兜も与《や》る。あの、おれの馬もくれてやるぞ。笑わせろ、笑わせろ! なんとかして合爾合《カルカ》を笑わせろ!
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汪克児《オングル》はここを先途《せんど》とおかし味たっぷりに、踊ったり跳ねたりする。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (汪克児《オングル》がきりきり[#「きりきり」に傍点]舞いをすればするほど、ますます憂鬱になる。突然怒りを含んで)えいっ、止めいっ!
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汪克児《オングル》はぺたんと尻餅をついて、肩で呼吸《いき》をする。
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成吉思汗《ジンギスカン》 面白くもない。姫を笑わすどころか、こら、見ろ、ますます沈んでしまったじゃないか。見苦しい奴だ。あっちへ行けっ!
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顔色を変えて突っ起つ。長老|哲別《ジェベ》、その雲往きを察して、追い立てるように将卒一同を引き取らせる。そして手早く合爾合《カルカ》姫を案内して、成吉思汗《ジンギスカン》の天幕《てんと》へ伴れ去る。成吉思汗《ジンギスカン》は辺りを睨《ね》め廻したのち、つと天幕へはいる。虎がのそりと立って後を追う。小姓|巴剌帖木《パラテム》が続こうとすると、
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汪克児《オングル》 巴剌帖木《パラテム》! これ――!
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と眼配《めくば》せして止める。そして、不審顔の巴剌帖木《パラテム》の手を引き、道行きのおかし味よろしく、下手へ引っ込む。舞台無人。篝りは消えかかって、正面天幕の内部に、明るく灯が映り、大きな虎の影が揺れる。長い間。幕。
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第二幕 第二場
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成吉思汗《ジンギスカン》私用の大天幕内。舞台上手寄りに、大いなる木の寝台を置き、白い羊の皮で堆高《うずたか》きまでに覆う。楯、鎧など、ほどよきところに飾る。正面の壁には、幼稚なる豪古地図の大い
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