うぎ》に掛ける。猛虎|太陽汗《タヤンカン》は悠然と成吉思汗《ジンギスカン》の傍に坐る。汪克児《オングル》は独りで戯《ふざ》けまわる。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (上機嫌に)今日第一の殊勲者は、木華里《ムカリ》だ。それ、木華里《ムカリ》、盃《さかずき》を与《や》るぞ。
木華里《ムカリ》 いえ、どうぞそのお盃は、まず合爾合《カルカ》さまへ。
成吉思汗《ジンギスカン》 うむ、そうだったな。花嫁にささんでは、この場の固めがつかない。合爾合《カルカ》、あれ以来あなたを慕いつづけてきた成吉思汗《ジンギスカン》の盃です。快く受けて下さい。
汪克児《オングル》 姫一人を思って、今まで独身《ひとりみ》をお守りなされた大王様のおさかずきじゃ。めでたい、めでたい!
合爾合《カルカ》姫 (覚悟を決めた態)はい。それでは、頂戴いたします。
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小姓|巴剌帖木《パラテム》が酌しようとする。
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木華里《ムカリ》 今日第一の殊勲者というお言葉に甘えて、お酌は、かくいう私が――。
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一同爆笑する中に、姫は、止むなく涙とともに盃を受けて、返す。
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成吉思汗《ジンギスカン》 おれはどんなにこの宵を待ち望んでいたことか。皆も笑ってくれるな。砂漠の虎だって、情を解しないものではない――天幕《てんと》に照る月、兜に置く露、この長の年月、ただの一日もあなたを忘れたことはなかった。
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合爾合《カルカ》姫は黙然と顔を外向《そむ》けている。四天王ら、口々に、「おめでとうございます。」「お喜び申し上げます。」などと祝いを述べて、いっせいに乾杯する。
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成吉思汗《ジンギスカン》 うむ、お前たちも飲め。これ、者勒瑪《ジェルメ》、合爾合《カルカ》姫は長の籠城で、さぞ不自由をしたことだろう。痛々しいかぎりだ。羊を屠《ほふ》れ。馬乳酪《カンメズ》を取り出せ。好豆腐《メイドウフ》も持って来い。ありったけの馳走を姫の前に並べろ。
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声に応じて、種々《いろいろ》な料理が運び
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