、変に人を打つものがあるのである。
ルウスが良人を愛していて、二人の夫婦仲の好いことは、ジュッド氏の言う通りに相違なかった。八月十七日附の彼女の手紙なども、提出されて、この点は明瞭に裏づけられた。
それは、若い女が恋人へ送るような手紙で、あなたの居ない生活は空虚だの、今はこの通り貧乏だが、いずれ私の力でよくして見せるだのと、書いてある。
「どうぞ本当に長く生きて下すって、いつものように私をからかって、一寸怒らしたり、馬に乗って野原に出たり、それから夜はお互いに読んだ小説を話しっこしましょう。あなたは私の生命の一部です。私に一番近いもの、というよりも、あなたは私自身なのです。
静かにあなたの腕の中にいる――私にとってそれ以上の幸福はありません。あなたはお話しが上手で、そして、歌がお得意ですわね。あの、青い鳥の歌。そして一緒にドライヴに出ますの。それらはみんな私にとって大事なもので、その一つでも失うことを考えると、私は気が違いそうです。今この手紙を書いている私は、眼が涙で一杯で、タイプライタアが見えません。私は何も食べられませんし、ちっとも眠れませんし、何をすることも出来ません」
前へ
次へ
全68ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング