食べていません。二時にもう一度病院へ出掛けて、受持ちの患者を見なければなりません。三時半に帰って来ます。夜の空気を吸うだけで、胸によくないんですけれど、夜勤はいやだなどと言ってはいられませんから――では、これから出掛けます。とても涼しくなりましたわ。早くお帰り下さいまし。でも、お発ちになった時と同じに汚ない家ですのよ。ですけど仕方がありませんわね。お金の詰った樽の二つ三つあるといいんですけど。ほんとに私達はぼろぼろの着物を着て、うす汚れていて、人が見たら吹き出したいように可笑しいでしょうけど、でも、二人で何時までも快活に、歌を歌ってこの人生を進みましょうね。
 あの陽気な節の「あなたと私と二人で肩を並べて」の歌を!
 二人は愛し合っているんですもの。
[#天から17字下げ]ルウスより
[#天から3字下げ]加州サンタ・モニカ十七丁目八二三番地
[#天から5字下げ]ウイリアム・C・ジュッド様


 これが兇行後間もなく良人へ書き送った「沙漠の女虎」ルウス・ジュッドの手紙なのだ。神経が太いというのか、何ていうのか、矢張り少し何うかしているように思う。が、原文には、一脈の哀愁が漂っているようで
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