年十月十七日」
 アリゾナ州フォニックス市にて。
 親愛なウイリアム、
 毎日のように手紙を書きかけては、途中で破いたり、用事が出来て書きつづけられなかったりして、つい御無沙汰に打過ぎました。そちらからは始終お手紙を頂いて、ほんとに感謝して居ります。私この頃とても忙しいんですの。何ていうことなしに夢中で日が経って行きます。
 夕方家へ帰って来ますと、猫を抱いて暫らく寝ますの。眼が覚めると、真っ暗になっています。其の時の寂しさといったら! でも、そんなこと言ってはいられませんから、勇気を出して、一人でお夕飯を食べます。あと片づけをすると、がっかりしてしまいますが、でも毎晩歴史の勉強をしています。それからまた猫を抱いてベッドへ這入りますの。この頃少し肥って参りましたわ。ルロイさんや、サミイと交際しなくなってから、とても気が楽になりました。食慾も随分あります。女中のスウはほんとに好い娘です。それは可愛いんですの。あの頃の私によく似ていると思います。私は自分が可愛かったとは言いませんが、でも、スウのように誰にでも話しかけて、みんなに親切でしたわ。ですけれど私は、何でも自分の思う通りにしなければ
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