ることは聞いたことがありません」
「奥さんの行方を突き止めるために、警察に力を貸して下さるでしょうね?」
「無論です。逃げ隠れたりなどしないで、立派に身の証しを立てて貰い度いと思います。若し家内が事実こんなことをしたのなら、何かそこに止むを得なかった事情があるものと思いますから、それを説明すべきです。お手数を掛けて申訳ありません。だが、私としては、家内から何とも言って来ない以上、何処に居るかは全然判りませんし、手のつけようがありません。若し何か言って来れば、即刻自首するように申聞けます。必ず責任を以て警察へ突き出します」
長時間の鋭い訊問に疲れ果てて、ジュッド医師は、すっかり神経質になっていた。女のように、ハンケチを眼へやって、
「こんなことが起ろうとは――ショックです。何うしたのでしょう! 私には解らない。あんなに優しい、好い妻なのですが――まだ二十六です。今朝アリゾナから出した、こんな手紙が妻から届きました」
と、上着のポケットから取り出した手紙は、十月十七日発のもので、スタンプの時間から判断すると、ルウスは女二人を殺した直後、この手紙を書いたものらしいのである。
「一九三一
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