ジュッド医師の言に依ると、ルウスはコカイン中毒者だったようでもある。それに悩んで、この悪癖から逃れるために、かなり苦しんで来たとのことだった。
「彼女をこの習慣から救うために、私は一生懸命でした。その点でも、彼女は私に感謝して、純真な愛を傾けて呉れたのです」暗然としてジュッド氏は口を結んだ。


 ジュッド氏の実妹のケリイ・ジュッドは、嫂《あによめ》の犯罪を聞いて、顛倒せんばかりに驚いて、「あり得べからざることだと思います。姉さん程、気持ちの平らな、感じの好い人は、この世の中に二人といない位いですのに――」
 このケリイに依れば、ルウスは又とない程美しい、青みがかった灰色の眼をして、睫毛と眉毛が長く、一種特徴のある魅力を備えているという、九年前にジュッド医師と結婚して、貧しいながら、実に仲の好い夫婦だったというのだ。


 このジュッド医師とケリイが訊問されている最中である。
 もう一つの恐ろしい発見が、矢張りロスアンゼルスの南太平洋鉄道停車場に於てなされた。
 ビュウラ・ベリイマンという掃除婦がある。
 夜行列車の発着も、ちょっと途絶えた深夜、帰宅の前に、婦人待合室を掃除していると、腰掛の蔭の床にスウツケイスと帽子函の遺留されてあるのが眼についた。確かではないが、その朝若い女が其処へ置いて、後から取りに来るからと言って出て行ったのだった。名札も附いていないし、頭文字《イニシャル》もないので、誰の荷物とも判定の下しようもないが、其処へ置き放しにする訳にもいかないので、掃除婦ベリイマンは、何心なく、そのスウツケイスの掛金に指を当ててみた。と、鍵が掛っていないで、ぱちんと、鍵が辷ったのである。いささかの好奇心も手伝って、ベリイマンがスウツケイスの蓋を開けて見ると――。

      4

 真っ赤なタオルに包んだ品物が押し込んである。怖ごわ開いた其のタオルの中から、ヘドウィッグ[#「ヘドウィッグ」は底本では「ヘッドウィッグ」]・サミュエルスンの身体の中央部が現れたのだ。二十五口径のコルトの自働|拳銃《ピストル》も緒にスウツケイスの底に発見された。
 翌早朝から捜査課長ジョセフ・F・テイラア氏が、自身ルウス・ジュッドの行方捜査に当ることになる。羅府《ロスアンゼルス》市内、若しくは同市を中心に十四、五哩の円を描いたその中に、ルウスはじっと息を潜めているものと捜査課は睨んだ。
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