った。
「十七の時私と結婚したのです。何うも身体が弱くて、あちこち南部の州を連れ歩きました。生れは、インディアナのラフィエット町ですが、私達は墨西哥《メキシコ》へも行きましたし、一度実家へ帰っていたこともあります。フォニックスに住むようになったのも、家内が私を助ける意味から、保養に来ていた市俄古の富豪の家庭看護婦として、そっちへ行くようになったからでした。私が思う通り活動出来ないので、こうして結婚後もよく病院勤めをして、生活を助けて呉れたのです」
「ピストルをお持ちですね、奥さんは」
「たしかコルトの自働式を一挺持っているようです。メキシコにいた時、物騒なので、護身用に携帯させたのでした。が、怖がって、触ったこともありません。弾丸も何時の間にか失くしたとか言って、家にないようでしたが、そう言えば去年の秋、新らしい弾丸を一箱買い入れていました」
「奥さんはこのロスアンゼルスに、頼って行くお友達でもおありですか。潜伏の便宜を得るという程親しくなくても、文通や交際のある――」
「存じません。が、あれば私も知っていると思います。快活なお饒舌り好きな女ですから、何でも言う筈ですが、羅府に知人のあることは聞いたことがありません」
「奥さんの行方を突き止めるために、警察に力を貸して下さるでしょうね?」
「無論です。逃げ隠れたりなどしないで、立派に身の証しを立てて貰い度いと思います。若し家内が事実こんなことをしたのなら、何かそこに止むを得なかった事情があるものと思いますから、それを説明すべきです。お手数を掛けて申訳ありません。だが、私としては、家内から何とも言って来ない以上、何処に居るかは全然判りませんし、手のつけようがありません。若し何か言って来れば、即刻自首するように申聞けます。必ず責任を以て警察へ突き出します」
 長時間の鋭い訊問に疲れ果てて、ジュッド医師は、すっかり神経質になっていた。女のように、ハンケチを眼へやって、
「こんなことが起ろうとは――ショックです。何うしたのでしょう! 私には解らない。あんなに優しい、好い妻なのですが――まだ二十六です。今朝アリゾナから出した、こんな手紙が妻から届きました」
 と、上着のポケットから取り出した手紙は、十月十七日発のもので、スタンプの時間から判断すると、ルウスは女二人を殺した直後、この手紙を書いたものらしいのである。

「一九三一
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