の者の話しでは、ルロイ夫人もサミュエルスン嬢も、去る十月十六日金曜日の夕方から、少しも影を見せないということ。
「其の地でチッキを提《さし》出した婦人の人相に当て填まるものは」フォニックスの係員は続けて、
「当署の調査に依れば、ルウス・ジュッド夫人ではないかと思われる。ルウス・ジュッド。Mrs. Ruth Judd そうです。J・U・D・D――ちょっと変った綴りです。この女は、お話にある通り、年齢約二十六、七歳、金髪で相当の美人です。いや、非常に美人だと言ってもいいでしょう。良人というのは、ウイリアム・C・ジュッドという医者で、目下御地羅府か、さもなければ加州のサンタ・モニカに出張している筈です。時どきジュッド夫人は、サンタ・モニカ町十七丁目八二三番地のアドレスで、良人と文通していることも判明しました。何うも疑問の女は、このジュッド夫人に相違ない。尚、夫人は、土曜日の晩当地発S・P第三号列車で、ロスアンゼルスへ向け、出発しています。家主の親爺が夫人に頼まれて、大きなトランクと少し小さなのと二つ、停車場まで運んだとも証言している。もう、断然間違いありません」
「O・K――それでは、相互に聯絡を保って、今後の進展を報告し合うことに――」
これで、電話が切れた。
間もなくフォニックス市のS・P鉄道会社から電報が来て、それによると、トランク発送人は、同市駅の台帳に、マッキンネル夫人と署名したという。この「マッキンネル夫人」は、ロスアンゼルス行きの切符を求めて、トランクと一緒に、その西部廻りの汽車に乗り込んだとある。これがルウス・ジュッド夫人であることは最早疑いの余地はない。
その間に羅府の捜査は着々進行して、交通課の調査に依り、あの、金髪の女と青年の乗っていたフォウドの自動車が突き留められた。羅府から十五哩程離れている小都会、ホウソン町に住んでいる一婦人の所有車なのだ。
が、刑事の訪問を受けて、その女は、
「あれはもう使い古した車なので、羅府の若い男の人に売って終いましたよ」
と言う。
「その買手の住所姓名は、判っているか」
「名前は――ちょっと忘れましたが、家は何でも、羅府ニュウ・ハンプシャア街八二六番地とか言っていたようですよ」
これに勇躍したライアン刑事は、同僚トレス・マックリィディの二人と緒《とも》に、早速其のニュウ・ハンプシャア街へ駈け付ける。もう
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