相貌は判然しないけれど、写真の姿体やなどから判断して、これも手紙の宛名にある其の「アグネス・アン・ルロイ夫人」だろうという事になった。コダックの写真の裏に一いち「サミイとアン」と親し気な文句が書いてあって、そして、その写真の凡べては、此の二人の女友達の如何にも仲の好さそうなポウズを示しているもの許りだ。
「サミイ―― Sammy」というのは、言うまでもなく、友達仲間の与えた、サミュエルスン嬢の愛称と思われる。


 大きな方のトランクから、財布が二つ出た。その他、二十五口径の弾薬筒三つと、鋼装の拳銃《ピストル》弾丸も一発、発見された。ワグナア博士の検証では、二人とも、この弾丸で撃たれたものらしいとある。
 もうこの時分には、羅府警察は全力を傾けて、この煽情的な「女詰めトランク」の犯人捜索に狂奔している。
 捜査課ががら空きで、署内の動きの只ならないのを見て取って、新聞記者は直ぐニュウスを嗅ぎつけて集まって来る。ダヴィッドスン警部とライアン刑事が、差閊えのない程度に発表して、新聞記者の協力を求めた、犯人の高飛びを懼れて、重大な手懸りは無論伏せてあるが――。
「何うもこれは、女の仕事らしく思われる」
 捜査課員の意見は、この点に一致したのだった。
 今や捜査は、全機構を挙げて、車輪のように廻わり始めた。フォニックス市のS・P会社へ宛てて、チッキ番号NO・406749と663165と、この二個のトランクを発送した人物に関する調査依頼の電報が飛ぶ。
 日曜日だった、この、事件の起った十月十九日は。
 長距離電話が、フォニックス市と羅府との間に交わされて、この殺されたふたりの女は、同市北二丁目二九二九番地―― No. 2929 North Second Street Phoenix, Arizona ――に住む Miss Hedvig Samuelson と Mrs. Agnes Anne Le Roi の二人に間違いないとなった。そこで今度は、この羅府の停車場で、トランクを受取ろうとして失敗した、あの二人の男女の人相書をフォニックスの警察へ電話で言い送ると、
「その人相に該当する者を当市に於て急遽捜査して、早速お知らせしましょう」
 フォニックス警察の答え。
 すると、である。一時間も経たないうちに、直ぐフォニックスから線が継がれて、北二丁目二九二九番地の家は目下無人で近所
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