捜査は、はじめからあまり期待もかけなかったとおりに、全然無効に終った。二人はどこの家へも行っていないのである。が、いよいよそうとわかると、ロス氏は初めて真剣に騒ぎ出していた。
いっぽうロス氏の電話を受け取った所轄《しょかつ》署はさっそく管内に散らばる警官に非常|通牒《つうちょう》を発してロス兄弟の影を見張らせたが、虫の知らせとでもいおうか、署長はこれだけではなんとなく不安を感じて、すぐさま中央署へ通知して助力と指揮を仰《あお》いだ。これはたんに、依頼人がロス氏というビジネス界と市政の大立物《おおだてもの》なので、とくに大事をとったにすぎなかったのかもしれないが、この署長の措置《そち》は、おおいに機宜《きぎ》を得たものとして、のちのちまで長く一般の好評を博したのだった。中央署も、相手がロス氏とあってただちに活動を開始した。映画で見るように、詰襟《つめえり》の制服に胸へ洋銀《ニッケル》の証章《バッジ》を付けた丸腰の警官隊が、棍棒を振りまわし、チュウイング・ガムを噛みながら八方へ飛んだ。私服も参加した。一瞬のうちに電話のベルが全市の分署へ鳴り響いて、宵の口のフィラデルフィアにたちまち物々し
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