白いのは、誘拐した悪漢が、こうして伴《つ》れ歩いているうちに、このチャアリイに愛を感じ出しているらしい一事だ。彼らだって人間だからすこしも不思議はないが、手のかかる子供を抱えて、男ふたりでおおいに困ったことだろうと察しられる。どうせこんな連中だから家庭を持ったことはあるまいし、育児の経験や知識なんか、彼らからは火星ほども遠い神秘の世界だったに相違ないが、泣き止まらない時など、二人の無頼漢《ぶらいかん》がさぞ顔を見合わせて当惑したろうと、その光景を想像することは、ちょっと人間的に愉快である。そして、そのうち一人が、あるいは、両人協力して、まるで父親みたいに、ボウトの中で日向《ひなた》ぼっこでもしながら、チャアリイのためにこの玩具《おもちゃ》の舟を拵《こしら》えて、「こら、チャア公! 毀《こわ》すんじゃあねえぞ」なんかと、多分の威厳とともに与えたのだ。おそらくは、もう「チャア公」になりきっているであろうチャアリイが、「うん、毀しゃしねえや」ぐらいの返答をしたにちがいないと心描することは、不自然でなかろう。

 その間も、フィラデルフィアのロス氏のもとへは、一通ごとに脅威を強調した誘拐《ゆう
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