ウォウリング氏は、自信に満ちて、いよいよ即刻手配すべく、勇躍してロス邸を辞した。
 実際警部は、この二日前に、あるたしかな筋から、モスタアとダグラスに人相の一致する二人の男が幼児を伴《つ》れて、ボルテモア付近の海岸の入江に接続する沼沢《しょうたく》地方をこっそり[#「こっそり」に傍点]とボウトでさまよっているのを見た者があるという、貴重な情報に接していたのだった。そして、事実この時すでに、腕ききの刑事の大部隊がその方面に総動員されていたのだ。が、このロス夫人の夢で見込みを倍加した探偵長は、帰庁するやいな、なおも手落ちのないように追加の警官をぞくぞくと繰り出した。ボルテモア市郊外の沼地に大々的な非常線が張り渡された。逮捕は一日、いや一時間、いや、この一刻の勝負かもしれない――警視庁とロス氏邸は、いまかいまかと吉報を待ち構えて、極度に色めき立った。
 この大がかりな非常線を指揮したのは、ウォウリング氏の同僚ヘデン警部だった。二日たつと、はたしてその部下の一人が、モスタアとダグラスの最近の足跡を嗅《か》ぎつけて来た。すっかり追い詰められて手も足も出なくなっている二人は、昨夜|窮余《きゅうよ
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