っ裸のまま声を立てて泣きだした。
 裸体になったとき、その子供たちの不幸が一度にさらけだされるのであった。しちむずかしい病名が、まっ黒になるほど書きあげられた。医師はそれによって今さらのごとく感心してみせた。「健全な精神は健全な肉体に宿る……昔の人はいいことを言ったもんですなあ、え? そうじゃありませんか?」すると校長もそれに答えるのである。「こんな不健全な身体では智能発達の劣るのもむりはありませんですな、いや、まったくもって家庭が悪い!」
 寒い日で子供たちの首筋には毛孔が立っていた。袴などはもちろんなかった。上履《うわばき》さえ買ってもらえない彼らは、床油を塗ったので、油がべとつく板の上をべたべた歩いた。さいわいに彼らは不幸に馴れきっていた。直接不愉快な場所を脱けだすとすぐにそれを忘れた。そして金切り声を天井にひびかしたり、でたらめな節まわしに口笛を吹きあげたりして、およそ無意味な騒音を立てながら自分の教室に雪崩《なだ》れこんで行った。
 白い壁が三方を立てこめているこの教室にはいると彼らは、何か自分の家に辿《たど》りついたような安心を覚え、鼻唄まじりに周囲を見まわすのであった。教
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