裸になり、元気よく医師の前に立った。
「※[#「耳+丁」、第3水準1−90−39]聹栓塞《ていでいせんそく》、アデノイド、帯溝胸――ふん!」医師は眼鏡を光らせて、はじめて感情をふくめたよろこびの声をあげた。
「おお、これはみごとな帯溝胸だ、ごらんなさい、どうです?」
 そばにいた看護婦は立ちあがってきたし、校長はたるんだ瞼を引きしめた。
「あたいん家はね、東京市の電気局だよ」と久慈は元気よく金切声をあげた。
 医師はその声を無視した。彼の興味は家庭の状況よりも、ほとんど畸型《きけい》に近い久慈恵介の胸にかかっていたのだ。彼はすかしてみたり、深さを測ってみたりした。そうしてますます感心し「ふうん――」と鼻を鳴らすのであった。
 順番を待っていた子供の中から、妬《や》っかんだ声が洩れてきた。
「久慈い――ちんちん、ごうごう、おあとが閊《つか》えています。久慈い――おあとが閊えているよ、早くかわんな」
 それを聞くと久慈恵介はきゅうに全身で真赤になった。彼はまだしきりに撫でている医師の手をふり払った。自分自身の体の醜さに気づき、それと父親の仕事が嘲られた口惜しさがいっしょくたになった。彼は素
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