んだ」
 おそろしく生まじめな眼を輝かした教師に、川上忠一はへへら笑いを見せて簡単にその動作をやってのけた。
「その調子!」と杉本は歓声をあげた、その調子――そして、このもったいぶった検査を次々に無意味なものにたたきこわしてしまえ。彼はそう思って、「ではその次だ」と呶鳴った。
「モシオ前ガ何カ他人ノ物ヲコワシタトキニハ、オ前ハドウシナケレバナランカ?」
「しち面倒くせえ、どぶ[#「どぶ」に傍点]ん中に捨てっちまわあ――」
「え? 何? なに?」杉本はすでに掲示されている正答の「スグ詫ビマス」を予期していたのだった。だがこの子供の返答は設定された軌道をくるりと逆行した。杉本は背負い投げを喰わされたようにどきまぎした。「え? 何? なに?」と彼は繰りかえした。「もう一度言ってごらん?」
「どぶ[#「どぶ」に傍点]に捨てっちまえば、誰が毀《こわ》したんだかわかりゃしねえだろう?」と川上は訊きかえした。
「じゃあもう一つだけ――」杉本は何度も使った質問を誦《そら》んじながら今度は子供の顔を注視するのであった。「モシオ前ノ友ダチガウッカリシテイテオ前ノ足ヲ踏ンダラオ前ハドウスルカ?」
「ちえっ!
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