容詞には、東西共通の、沈魚落雁、閉月羞花とか、花顔柳腰明眸皓歯とかといふ美人に共通の資格の外に、「動」といふものが美人の美人たる資格の内に含まれてゐるのである。此処が大いに東洋とは異なる点である。例へば近代美人を論ずるものの例としていつも引合に出される路易《ルイ》十五世の嬖幸マダーム・ポンパドールの美人振を描写したものなどに就いて見ても、その一端が窺はれる。今ゴンクウル兄弟が書いた同夫人の伝記などは西洋流美人の見方に就てのよい一例となるだらうと思はれるから、左に抄録してみよう。ゴンクウルは先づ、ポンパドール夫人の顔の色艶《いろつや》のいいことや、その唇や、目や、髪毛や、頬や、笑靨や、その肢体やの何一つとして※[#「豊+盍」、第4水準2−88−94]美ならざるはなく、男の心を惹き付けぬものはないと賞めちぎつた後で、さて是に附加へてポンパドール夫人が美人中の美人である所以は、何よりもその表情の早き動き[#「動き」に白丸傍点]であると断定し、そしてその表情の変化と同時に、その顔面の賑やかさは、実に言語に絶する程で、約言すれば彼女の霊魂《たましひ》の絶え間なき動き[#「動き」に白丸傍点]を、そ
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