の艶麗と嬌媚との間に自然に現はすのであるから、男の心を動かし、唆《そそ》り、挑発し、是を魅惑するにはこれ以上力の強いものはないといつてゐるのである。
此の如く心の動きを表情[#「心の動きを表情」に白丸傍点]を美の一大資格としてある西洋に於て、黒子《ほくろ》が美となるのは自然の勢である。何故かといへば、黒子は表情を助けて是を強調せしむるに大いに役立つからである。例へば静かに平らかに鏡のやうに澄み切つた水面の上に投げられた一箇の石のやうなもので、その水面を動かして変化を生じ※[#「さんずい+艶」、第4水準2−79−53]々たる波動を起して所謂画龍の点睛となるからである。
黒子が西洋に於て尊重されるのは、彼等が「動」を愛する心理作用から来るのである。然るに東洋の美は「静」の内に存するので、随つて正整がその必要条件となるのである。「動」は正整を乱すから、正整を主とした美には「動」を排斥するのである。これ即ち黒子が西洋で貴《たつと》ばれ、東洋では嫌はれる原因の一かと思はれる。
随つて、西洋には美人の黒子に関した文献もあれば、絵画も随分多くある。これに関する逸話なども少くはないが、わざとここ
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