には省くことにする。が一例を挙ぐれば先頃ポオル・モオランが書いた小説「三人女」の中のクラリスに就いて、
……彼女は黒子をつくりかへる。
……………………
……彼女は黒子棒を拭く……
などとある。これは「ムーシユ」を貼り著けるのではなくて、黒子を顔面にすぐに描く今|流行《はや》る簡便式なのである。
ところが東洋には黒子のある美人の絵などはあらう筈もなく、婦人の黒子に関する文献なども、あるにはあるが、矢張り黒子を邪魔物扱ひにした記録なのである。西鶴の「好色一代女」の巻の一の「国主の艶妾」の一節で、それは国主の為めに艶妾を求める一老人が、「大かたこれにあはせて抱えたきとの品好み」の人相書の中に、「……当世顔はすこしく丸く、色は薄花桜にして、目は細きを好まず鼻の間せはしからず、口小さく、歯なみあらあらとして白く……、姿に位そなはりて心立おとなしく……、身に黒子ひとつもなきをのぞみとあらば[#「身に黒子ひとつもなきをのぞみとあらば」に白丸傍点]……」と云うてある。
だから、日本では全身に一つの黒子《ほくろ》さへないのが理想的美人の典型としてあつて、西洋とは正反対である。
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