の皮膚の白いこと雪を欺くばかりの美しい顔に、一点黒色の「ムーシユ」を附著して見た処が、黒と白とのコントラスト、即ち反対色の効果の為めに、白色はますます白く見へて美人の容色が一段と引立つて見へるので、我も我もと是を真似る婦人が多くなつて、遂には痘痕も何にもない婦人まで「ムーシユ」を用ゐるやうになつて、そこで「ムーシユ」の大流行となつたものであると云ふことである。そしてそれを始めたのがイタリヤである。イタリヤでは、随分昔からその風が行はれてゐたものだと云ひ伝へられてゐる。
それが十六世紀に始めてフランスに伝播し、十七世紀十八世紀の頃、特にルヰ十五世時代にはフランスに於て大々的の流行となつて、上下貴賤の差別なく婦人と云ふ婦人は化粧用として皆この「ムーシユ」を用ゐたもので、実に「ムーシユ」の全盛期とされてゐる。
その当時の「ムーシユ」の著け方は、今とは大分異つてゐるのである。当時の「ムーシユ」の著け方を見るに少くとも必ず三点以上としてあつたものである。左の目の上に二つ。右の目の上に一つ。これは是非とも著けることになつてゐた。この外に頬部に著ける分は各自の好き好きに随つて二つでも三つでも御勝
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