ペは親切で人好きはよい男だが、図書係りの職務には余り熱心といふ程ではなかつた。で、少しの隙さへあれば好きな小話《コント》を作つたり、詩作に耽つたりしてゐた。処が或日コクランがやつて来て図書館の書類の整理が不行届だなどぶつぶつ小言を言つた挙句に「図書係りは月給を貰つてゐないのか」と毒づいた。それを又コッペに告げ口した者があつたので、コッペは直ぐに辞職を申し出した。中に入つて色々となだめたり、すかしたりした人もあつたが、コッペは自分の威厳に関する問題だからといつて、頑として聴き入れず、たうとうコメデー・フランセーズの図書係を退職してしまつた。
 この事以来彼は決して外の内職などはせぬと決心して、一意文芸に精進した。そのお蔭で、懐工合も以前に比べて別段不如意になつたといふ訳でもなく、却つて自由に仕事が出来て仕合せだと、喜んでゐたといふ事だつた。これがコメデー・フランセーズ座とコッペの間柄について世間に一般に伝へられてゐる話である。
 脚本の経緯などにからまつて、話は知らぬ間に『苺園』を抜け出てゐた。
 と、急に気がついて、話を後に戻す。で、苺園を辞する前に、僕はコッペの働き振りが知りたかつた
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