ネいという、未練至極な考えを持っている者もあって、折々新聞の三面に材料を供することであるが、古代のアラビア人にも、この類《たぐい》の男が多かったと見え、実に奇抜な離婚方法を発明した。即ち妻に向って「あなたは今日より私の御母さんで御座います」という宣言をするのである。夫妻の関係はこの宣言とともに全く絶えて、昨日の妻は今日の母となり、爾後は一切の関係皆実母としてこれに奉事せねばならぬのであるが、実際は御隠居様として敬して遠ざけて置くのである。
 かくの如き慣習は、余りに自分勝手な、婦人を馬鹿にし過ぎたもので、その弊害に堪えぬからして、さすがはモハメット、右の一句をもって断然この奇習を廃したのである。
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 二五 動植物の責任


 近世の法学者は、自由意思の説によって責任の基礎を説明しようと試みる者が多い。人は良心を持っている。故に自ら善悪邪正を弁別することが出来る。人の意思は自由である。故に善をなし悪を行うは皆その自由意思に基づくものである。かく弁別力を具えながら、なお自由意思をもって非行を敢えてするものがある。人に責任なるものが存するのはこの故に外ならない。しかるに禽獣草
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