いうことである。
箕作阮甫《みつくりげんぽ》先生の養嗣子省吾氏は、弱冠の頃、已《すで》に蘭語学に精通しておったが、就中《なかんずく》地理学を好んで、諸国を歴遊し、山河を跋渉《ばっしょう》して楽しみとしておった。
その後ち和蘭の地理書を根拠として地理学上の著述をなし、「坤輿図識《こんよずしき》」と題してこれを出版した。氏がこの書を起稿しておった際オランダ語のレプュブリーク(Republiek)という字に出会い、その字義を辞書で求めたところ、君主のない政体をレプュブリークと称するとあった。しかし、国に君主がない政治ということは、当時の我国人に取っては殆んど了解の出来ない事であったので、これに対して如何なる訳語を用うべきであるかと思案の余り、氏は当時の老儒大槻磐渓先生を訪ねてその適当なる訳語を問うた。
磐渓先生は対《こた》えて言われるには、国として君主のないのは変体ではあるが、支那にもその例がない事もないのである。かの周の時代に、※[#「※」は「勵−力」、第3水準1−14−84、205−2]王が無道の政を行って、国民の怨を買い、遂に出奔した時、周・召の二宰相がともに協力して、十四年の間
前へ
次へ
全298ページ中158ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
穂積 陳重 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング