、則柴田修理亮、坂井右近将監、森三左衛門尉、蜂屋兵庫頭、彼等四人被仰付ケレバ、則制札ヲゾ出シケル云々。
[#ここで字下げ終わり]
と見えているが、同書に拠れば、これは永禄十一年十月のことである。また「清正記」に載せてある天文二十年正月に豊臣秀吉の下した掟の中にも、
[#ここから2字下げ、「一銭」の「一」をのぞいて「レ一二」は返り点]
一、軍勢於二味方地一乱妨|狼籍《ろうぜき》輩|可レ為《たるべき》二一銭切一事。
[#ここで字下げ終わり]
と見えており、また「安斎随筆」に引いてある「房総志科」に拠れば、望陀郡真里公村なる天寧山真如寺の門前の禁※[#「※」は「片+旁」、第4水準2−80−16、298−10]《きんぼう》の文にも、
[#ここから2字下げ、「一銭」の「一」をのぞいて「レ一二」は返り点]
門前百姓、於二非法有一レ之者、可レ為二一銭切一事。
[#ここで字下げ終わり、「レ」は返り点]
と記してあったということである。
この「一銭切」とは何のことであろうか。これに関しては種々の説があるようであるが、先ず第一には、伊勢貞丈《いせさだたけ》は、一銭切とは一銭をも剰さず没収する財産刑であろうというて、その著「安斎随筆」の中に次の如くに述べている。
[#ここから2字下げ、「レ」は返り点]
貞丈|按《あんずるに》、一銭切と云《いう》は、犯人に過料銭を出さしむる事ならん。切の字は限なるべし。其過料を責取るに、役人を差遣《さしつかわ》し、其犯人の貯へ持たる銭を有り限り取上る。譬《たとえ》ば僅に一銭持たるとも、其一銭限り不レ残取上るを一銭切と云なるべし、捜し取る事と見ゆ。
[#ここで字下げ終わり]
次に新井白石は、一銭を盗めるものをも死刑に処することであるとして、「読史余論」の中に次の如くに述べている。
[#ここから2字下げ]
此人(豊臣秀吉)軍法に因て一銭切といふ事を始めらる。たとへば一銭を盗めるにも死刑にあつ。
[#ここで字下げ終わり]
しかしながら第一の貞丈の説はあるいは曲解ではあるまいか。殊に軍陣の刑罰に財産刑を用いるというのは、少々受取りにくい次第である。やはり「切」は「斬」であって、事一銭に関する如き微罪といえども、斬罪の厳刑をもってこれを処分し、毫も仮借することなきぞとの意を示した威嚇的法文と見るのが穏当と思われる。
[#改ページ]
八七 合同反抗
合
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