どういう意味でいうのか知らないが、日本の美術も進歩した、誰彼の如きはフランスへ持って行っても優に一流の作家と肩を並べて恥ずかしくない位の実力を持っている、などという人があるが、私には到底そんなことは考え得られない。今度の事変では皇軍の強いことが改めて世界にはっきり認められたが、美術ももちろんそうあるべきことを熱望はしても、私の見るところでは、美術は未だそこまで行っているとは思えない。油絵は固よりであるが、日本画もその日本的な特色を離れて見ると案外幼稚であるように考えられる。戦争の場合における程、無条件に日本の美術を高く見ることは私にはできないのである。
 日本画の伝統について見れば、もちろん古人には幾多の優れた人がいるが、現代日本美術の水準は、日本画、洋画押しなべて世界第一流のものとは直ちに断定し得ないのである。いくら自分で世界一の美術だと称しても、押しの一手だけでは世界を承服せしむることはできない。皇軍の定評は、そこに儼たる実力が伴っているからであって、日本の美術が世界一になるためにはやはりそれだけの実力を持たなければならぬ。われわれはその押しを利かせるだけの実力を、すべからくわ
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