び》なりといえども、降参《こうさん》放免《ほうめん》の後《のち》に更に青雲の志を発して新政府の朝《ちょう》に富貴《ふうき》を求め得たるは、曩《さき》にその忠勇を共にしたる戦死者|負傷者《ふしょうしゃ》より爾来《じらい》の流浪者《るろうしゃ》貧窮者《ひんきゅうしゃ》に至るまで、すべて同挙《どうきょ》同行《どうこう》の人々に対して聊《いささ》か慙愧《ざんき》の情なきを得ず。これまたその功名の価《あたい》を損ずるところのものにして、要するに二氏の富貴こそその身の功名を空《むなし》うするの媒介《ばいかい》なれば、今なお晩《おそ》からず、二氏共に断然《だんぜん》世を遁《のが》れて維新《いしん》以来の非を改《あらた》め、以《もっ》て既得《きとく》の功名を全《まっと》うせんことを祈るのみ。天下後世にその名を芳《ほう》にするも臭《しゅう》にするも、心事の決断|如何《いかん》に在《あ》り、力《つと》めざるべからざるなり。
 然《しか》りといえども人心の微弱《びじゃく》、或は我輩《わがはい》の言《げん》に従うこと能《あた》わざるの事情もあるべし。これまた止《や》むを得ざる次第《しだい》なれども、兎《と》に
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