子孫に遺すのみならず、内行不取締は醜聞を世界万国に放つものにして、自国の名声を害するの罪人なり云々とて、筆鋒の向かう所は専《もっぱ》ら男子にして、婦人の地位|如何《いかん》に論及したることなし。そもそも我が国の婦人を男子に比較するときは、全く地位を殊《こと》にし、居家《きょか》内実の権力はともかくも、戸外交際の事に至りてはすべて男子のために専らにせられて、婦人は有れども無きに異ならず。特に男子が多妻の醜行を犯して婦人の情を痛ましむるが如き、ただに自愛に偏するのみならず私曲私慾の最も甚だしきものにして、更に一言の弁論あるべからず。我輩は常に世の道徳論者の言を聞き、論者が特にこの大切なる一点をば軽々《けいけい》看過してあたかも不問に附する者多きを見て窃《ひそ》かに怪しむのみか、その無識を冷笑するほどの次第なれば、大いに婦人の地位を推《お》してこれを高処に進め、以て男子に拮抗《きっこう》せしめんとするの考案なきにあらず。徹頭徹尾、今の婦人と今の男子とを相対照して今の関係にあらしむるは、我輩のあくまでも悦《よろこ》ばざる所なれども、眼を転じて一方より考うれば、本来物の高低・強弱・大小等は相対の
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