かじょう》なるが故に、いやしくもこれに心付きたる者は、片時《へんじ》も猶予せずしてその過ちを改めざるべからず。今の世界に居て人生誰か自国を愛せざる者あらんや。国のためとあれば荊《いばら》に坐し胆《たん》を嘗《な》むるも憚《はばか》らざるは人情の常なり。内行を慎むが如き、非常の辛苦にあらず。在昔《ざいせき》はこれを戒むるの趣意、単にその人の一身にありしことなれども、今は則《すなわ》ち一国の栄辱に関して、更に重大の事とはなりたり。身を思い国を思う者は、深く自ら省みる所なかるべからざるなり。
「日本男子論」の一編、その言《こと》既に長く、真正面より男子の品行を責めて一毫《いちごう》も仮《か》さず、水も洩《も》らさぬほどに論じ詰めたることなれば、世間無数|疵《きず》持つ身の男子はあたかも弱点を襲われて遁《のが》るるに路《みち》なく、ただその心中に謂《おもえ》らく、内行の不取締、醜といわるれば醜なれども、詐偽《さぎ》・破廉恥《はれんち》にはあらず、また我が一身の有様は自《おの》ずから人に語るべからざる都合もあることなるに、斯《か》くまでに酷言《こくげん》せずともなどといささか不平もありながら、さ
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