、親子の不和となり、兄弟の喧嘩となり、これを要するに日本国には未だ真実の家族なきものというも可なり、家族あらざれば国もまたあるべからず、日本は未だ国を成さざるものなりなど、口を極めて攻撃せらるるときは、我輩も心の内には外国人の謬見《びゅうけん》妄漫《ぼうまん》を知らざるにあらず、我が徳風|斯《か》くまでに壊《やぶ》れたるにあらず、我が家族|悉皆《しっかい》然るにあらず、外人の眼の達せざる所に道徳あり家族あり、その美風は西洋の文明国人をしてかえって赤面せしむるもの少なからず、以て家を治め以て社会を維持するその事情は云々《うんぬん》、その証拠は云々と語らんとすれども、何分にも彼らが今日の実証を挙げて正面より攻撃するその論鋒《ろんぽう》に向かっては、残念ながら一着を譲らざるを得ず。遂に西洋人に仮《か》すに我を軽侮するの資《し》を以てして、彼らをして我に対して同等の観をなさしめざるに至りしは、千歳の遺憾、無窮《むきゅう》に忘るべからざる所のものなり。
 然《しか》り而《しこう》して日本国中その責《せめ》に任ずる者は誰《た》ぞや、内行《ないこう》を慎まざる軽薄男子あるのみ。この一点より考うれば、
前へ 次へ
全60ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
福沢 諭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング