の弁明に怠らず。日本国民|既《すで》に耶蘇《ヤソ》教に入りたる者あり、なお未だ入らざる者ありといえども、その入ると入らざるとはただ宗教上の儀式にして、日本帝国決して不徳の国にあらず、耶蘇教国|独《ひと》り徳国にあらず、いやしくも数千年の国を成して人事の秩序を明らかにし、以て東海に独立したるものにして、立国《りっこく》根本の道徳なくして叶《かな》うべきや、耶蘇の教義|果《は》たして美にして立国に要用なりとならば、我が日本国には耶蘇の名のほかに無名の耶蘇教民あることならんなどと、百方に言葉を尽して弁論すれば、また自《おの》ずからその意を解して釈然たる者なきにあらざれども、その談論時として男女関係の事に及び、日本の男子は多妻を許されてこれを咎《とが》むるものなく、ただに法律に問わざるのみならず習俗の禁ぜざる所なれば、社会の上流良家の主人と称する者にても、公然この醜行を犯して愧《は》ずるを知らず、即ち人生|居家《きょか》の大倫を紊《みだ》りたるものにして、随《したが》って生ずる所の悪事は枚挙に遑《いとま》あらず、その余波《よは》引いて婚姻の不取締となり、容易に結婚して容易に離婚するの原因となり
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