垢《むく》にして、一点の汚痕《おこん》を留《とど》めざるものというべし。斯《か》くありてこそ一国の政治社会とも名づくべけれ。その士気の凜然《りんぜん》として、私《し》に屈せず公《こう》に枉《ま》げず、私徳私権、公徳公権、内に脩《おさ》まりて外に発し、内国の秩序、斉然巍然《せいぜんぎぜん》として、その余光を四方に燿《かがや》かすも決して偶然にあらず。我輩は、我が政治社会の徳義をして先ず英国の如くならしめ、然る後に実際の政事政談に及ばんことを欲するものなり。
外国と交際を開きて独立国の体面を張らんとするには、虚実両様の尽力なかるべからず。殖産工商の事を勉めて富国の資を大にし、学問教育の道を盛んにして人文の光を明らかにし、海陸軍の力を足して護国の備えを厚うするが如き、実際直接の要用なれども、内外人民の交際は甚だ繁忙多端にして、外国人が我が日本国の事情を詳《つまび》らかにせんとするは、容易なることにあらざるが故に、彼らをして我が真面目《しんめんもく》を知らしめんとするには、事の細大に論なく、仮令《たと》え無用に属する外見の虚飾にても、先ずその形を示して我を知るの道を開くこと甚だ緊要なりとす。
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