品行にして始めて能《よ》く他を圧倒するに足るものの如し。
そもそも内行の不取締は法律上における破廉恥《はれんち》などとは趣を異《こと》にして、直ちに咎《とが》むべき性質のものにあらず。また人の口にし耳にするを好まざる所のものなれば、ややもすれば不知不識《しらずしらず》の際にその習俗を成しやすく、一世を過ぎ二世を経《ふ》るのその間には、習俗遂にあたかもその時代の人の性となり、また挽回すべからざるに至るべし。往古、我が王朝の次第に衰勢に傾きたるも、在朝の群臣、その内行を慎まずして私徳を軽んじ、内にこれを軽んじて外に公徳の大義を忘れ、その終局は一身の私権、戸外の公権をも併《あわ》せて失い尽したるものならんのみ。されば今日の政治家が政事に熱心するも、単に自身一時の富貴のためにあらず、天下後世のために、国民の私権を張り公権を伸ばすの道を開かんとするの趣意にこそあれば、後の世の政治社会に宜《よろ》しからざる先例を遺《のこ》すは、必ず不本意なることならん。もしもその本心に問うて慊《こころよ》からざることあらば、仮令《たと》え法律上に問うものなきも、何ぞ自ら省みて、これを今日に慎まざるや。金玉《きん
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