生じ、夫婦の道始めて行われたるものなり。さてこの独化《どっか》独生《どくせい》の人が独り天地の間に居《お》るときに当たりては、固《もと》より道徳の要《よう》あるべからず。あるいは謹《つつし》んで天に事《つか》うるなどのこともあらんなれども、これは神学の言にして、我輩が通俗の意味に用うる道徳は、これを修めんとして修むべからず、これを破らんとして破るべからず、徳もなく不徳もなき有様なれども、後《のち》にここに配偶を生じ、男女|二人《ににん》相《あい》伴《ともの》うて同居するに至り、始めて道徳の要用を見出したり。その相伴うや、相共に親愛し、相共に尊敬し、互いに助け、助けられ、二人《ににん》あたかも一身同体にして、その間に少しも私《わたくし》の意を挟《さしはさ》むべからず。即ち男女|居《きょ》を同じうするための要用にして、これを夫婦の徳義という。もしも然《しか》らずして、相互いに疎《うと》んじ相互いに怨《うら》んでその情を痛ましむるが如きありては、配偶の大倫《たいりん》を全うすること能《あた》わずして、これをその人の不徳と名づけざるを得ず。我輩|窃《ひそ》かに案ずるに、かの伊奘諾尊、伊奘冊尊、
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