《やしな》うの風を成したるものの如し。天理の議論などはともかくも、家名を重んずるの習俗に制せられて、止《や》むを得ず妾を畜うの場合に至りしは無理もなきことにして、またこれ一国の一主義として恕《じょ》すべきに似たれども、天下後世これより生ずる所の弊害は、実に筆紙《ひっし》にも尽し難きものあり。
 さなきだに人類の情慾は自《おの》ずから禁じ難きものなるに、ここに幸いにも子孫相続云々の一主義あることなれば、この義を拡《おしひろ》めていかなる事か行わるべからざらんや。妻を離別するも可なり、妾《しょう》を畜《やしな》うも可なり、一妾にして足らざれば二妾も可なり、二妾三妾随時随意にこれを取替え引替うるもまた可なり。人事の変遷、長き歳月を経《ふ》る間には、子孫相続の主義はただに口実として用いらるるのみならず、早く既にその主義をも忘却し、一男にして衆婦人に接するは、あたかも男子に授けられたる特典の姿となり、以て人倫不取締の今日に至りしは、国民一家の不幸に止《とど》まらず、その禍《わざわい》は引いて天下に及ぼし、一家の私徳|先《ま》ず紊《みだ》れて社会交際の公徳を害し、立国の大本《たいほん》、動揺せざら
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