ざるはなきその中についても、日本の如きは最も甚だしきものにして、古来の習俗、一男多妻を禁ぜざるの事実を見ても、大概を窺《うかが》い見るべし。西洋文明国の男女は果たして潔清《けっせい》なりやというに、決して然らず、極端について見れば不潔の甚だしきもの多しといえども、その不潔を不潔としてこれを悪《にく》み賤《いや》しむの情は日本人よりも甚だしくして、輿論《よろん》の厳重なることはとても日本国の比にあらず。故に、かの国々の男子が不品行を犯すは、初めよりその不品行なるを知り、あたかも輿論に敵して窃《ひそ》かにこれを犯すことなれば、その事はすべて人間の大秘密に属して、言う者もなく聞く者もなく、事実の有無にかかわらず外面の美風だけはこれを維持してなお未だ破壊に至らずといえども、不幸なるは我が日本国の旧習俗にして、事の起源は今日、得て詳《つまび》らかにするに由《よし》なしといえども、古来家の血統を重んずるの国風にして、嗣子《しし》なく家名の断絶する法律さえ行われたるほどの次第にて、頻《しき》りに子を生むの要用を感じ、その目的を達するには多妻法より便利なるものなきが故に、ここにおいてか妾《しょう》を畜
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