身の病気にして他人の病を憂うるに及ばざるに、ただ夫婦の約束したるがために、あたかも一生の苦労を二重にしたる姿となり、一人にして二人前の勤めを勤むるの責《せめ》に当たるは不利益なるが如くなれども、およそ人間世界において損益苦楽は常に相《あい》伴《ともの》うの約束にして、俗にいわゆる丸儲《まるもう》けなるものはなきはずなり。故に夫婦家に居て互いに苦労を共にするは、一方において二重の苦労に似たれども、その苦労の代りには一人の快楽を二人の間に共にして、即ち二重の快楽なれば、つまり損亡《そんもう》とてはなくして苦楽|相《あい》償《つぐの》い、平均してなお余楽《よらく》あるものと知るべし。
されば夫婦家に居《お》るは必ずしも常に快楽のみに浴すべきものにあらず、苦楽相平均して幸いに余楽を楽しむものなれども、栄枯無常の人間世界に居れば、不幸にしてただ苦労にのみ苦しむこともあるべき約束なりと覚悟を定めて、さて一夫多妻、一婦|多男《ただん》は、果たして天理に叶《かな》うか、果たして人事の要用、臨時の便利にして害なきものかと尋ぬるに、我輩は断じて否《いな》と答えざるを得ず。天の人を生ずるや男女同数にして、
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