この人類は元《もと》一対の夫婦より繁殖したるものなれば、生々《せいせい》の起原に訴うるも、今の人口の割合に問うも、多妻多男は許すべからず。然らば人事の要用、臨時の便利において如何《いかん》というに、人間世界の歳月を短きものとし、人生を一代限りのものとし、あたかも今日の世界を挙げて今日の人に玩弄《がんろう》せしめて遺憾なしとすれば、多妻多男の要用便利もあるべし。世事《せじ》繁多《はんた》なれば一時夫婦の離れ居ることもあり、また時としては病気災難等の事も少なからず。これらの時に当たっては夫婦一対に限らず、一夫|衆婦《しゅうふ》に接し、一婦|衆男《しゅうだん》に交わるも、木石《ぼくせき》ならざる人情の要用にして、臨時非常の便利なるべしといえども、これは人生に苦楽相伴うの情態を知らずして、快楽の一方に着眼し、いわゆる丸儲けを取らんとする自利の偏見にして、今の社会を害するのみならず、また後世のために謀《はか》りて許すべからざる所のものなり。
男女にして一度《ひとた》びこれを犯すときは、既に夫婦の大倫を破り、恕《じょ》の道を忘れて情を痛ましめたるものにして、敬愛の誠はこの時限りに断絶せざるを得ず
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